専門技術

人工知能による胚選別技術(AI Embryo Selection)


人工知能による胚選別技術は、主に深層学習技術を活用し、大量の胚画像データから発育過程における動態変化の特徴を自動的に学習・解析することで、胚着床の可能性を予測する技術です。各胚に対して「着床ポテンシャルスコア」を付与し、最終的には医師がAIスコアと患者の臨床状況を総合的に判断し、最も成功率が高いと考えられる胚を選択して移植を行うことで、体外受精の成功率向上を図ります。

体外受精成功率の向上
AIは胚の発育過程を解析することで、約70~75%の精度で染色体が整倍体であるかを予測することが可能であり、着床前染色体スクリーニングにおける胚品質評価の補助的ツールとして活用できます。

当院の取り組みと強み
人工知能による胚選別技術の精度は、導入されているデータベースの質と規模に大きく依存します。当院では、精度向上のために以下を実施しています:

  • データ活用
    タイムラプス画像監視システムのデータベースを活用
    自施設の臨床データを研究を通じて統合
  • 豊富な実績と経験
    年間5,000周期以上の生殖医療
    体外受精による出生実績:3万例以上
    38年以上にわたる生殖医療の実績

これらを基盤に実際の臨床に即した、より精度の高い胚選別を実現しています。

卵子紡錘体識別技術(Spindle View)


紡錘体(ぼうすいたい)は細胞分裂時に染色体の移動を担う構造であり、母体由来の遺伝情報を含んでいます。そのため、紡錘体が損傷すると胚発育への影響や染色体異常の原因となる可能性があります。

高年齢における課題
高年齢の患者では紡錘体の約15~20%に位置異常がみられることがありますが、通常の顕微鏡下では紡錘体は透明で観察することができません。

偏光顕微鏡の活用
当院では偏光顕微鏡を用いて紡錘体の位置を可視化し、精子顕微授精時に染色体への損傷を回避するとともに、受精成功率の向上を図っています。
紡錘体識別技術は、卵子に対する非侵襲的な「位置情報把握技術」ともいえ、精子顕微注入部位を精密に特定できる技術で、以下の方に適しています。

  • 高年齢の女性(38歳以上の女性)
  • 卵子の数が少ない方

卵子紡錘体識別技術の研究
当院の研究チームは2017年、前回の精子顕微授精において受精率が50%未満であった患者様を対象に、新たな治療周期において卵子紡錘体位置の特定と単一精子顕微授精を併用しました。その結果、受精率は有意に上昇しました。
さらに事後解析の結果、38歳以上の患者において紡錘体の位置偏位が高い割合で認められることが明らかとなりました。これらの結果を踏まえ、当院では高年齢層の体外受精治療において、紡錘体位置の可視化技術と単一精子顕微授精を優先的に併用し、受精率の大幅な改善を実現しています。

着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)


研究により、胚の染色体数的異常や構造異常は、習慣性流産、高齢不妊、原因不明の不妊の一因となることが明らかになっています。PGT-Aでは、主に胚が有する23対の染色体数を解析し、染色体数が正常な胚を選択して移植することで、染色体異常に起因する自然流産や人工流産のリスクを低減し、体外受精の成功率向上を図ります。当センターのPGT-A(PGS)では、マイクロアレイ全ゲノム解析技術を採用しているほか、より高度な次世代シーケンシング技術も導入しており、迅速かつ高精度・高解像度の染色体遺伝子解析を提供しています。

着床前単一遺伝子疾患診断(PGT-M)


単一遺伝子疾患は、優性遺伝、劣性遺伝、性染色体連鎖遺伝に分類されます。単一遺伝子優性疾患では、1つの病的遺伝子を有するだけで発症するため、単一遺伝子疾患の家族歴を有する夫婦がPGT-Mの対象となります。PGT-Mは、発生第5~6日目の胚から栄養外胚葉(将来胎盤となる組織)を採取し、移植前に特定の疾患に関連する遺伝子変異の有無を検査する技術です。当院では個別化医療として、患者ごとに適切な検査戦略および検査方法を設計し、カスタマイズされた検査サービスを提供しています。

  • 対象となる主な疾患
    サラセミア、血友病、脊髄性筋萎縮症(SMA)、X連鎖性脆弱X症候群、強直性脊椎炎、遺伝性難聴、色覚異常など

本技術は、家族内に特定の単一遺伝子疾患を有する夫婦、または単一遺伝子疾患を罹患したお子さまがいるご家族に適しています。

着床前多因子疾患リスク評価(PGT-H)


PGT-H(Preimplantation Genetic Testing for Polygenic traits)は、体外受精と遺伝子技術を組み合わせた検査で、胚移植前に遺伝子を分析し、将来の特定疾患の発症リスクを評価することを目的としています。DNA解析により「多因子疾患リスクスコア」を算出し、1型・2型糖尿病、高血圧、特定のがんなどの遺伝的リスクを評価します。

単一遺伝子疾患を対象とするPGT-M(例:サラセミア)とは異なり、PGT-Hは複数の遺伝子が関与する疾患を対象とします。これらは数十~数百の遺伝子多型(SNPs)に加え、生活環境や生活習慣などの要因が複合的に影響して発症リスクが形成されます。

多因子疾患のリスクは確率的なものであり、発症を保証するものではありませんが、生活習慣の改善などにより低減できる可能性があります。

PGT-Hは現在も臨床応用段階にあり、すべての医療機関で実施されているわけではありません。本検査はリスク評価を通じて、将来親となる方々がより多くの情報に基づいた選択を行い、次世代の慢性疾患リスク低減を目指すものです。

比較項目 PGT-A PGT-M PGT-H
検査内容 染色体数異常の検査 特定単一遺伝子異常の診断 多因子疾患発症リスクの評価
検査目的 体外受精妊娠率向上 家族性遺伝疾患の発症リスク回避 慢性疾患の予防的リスク管理
結果判定 整倍体/異数体/モザイク胚 非保因者/保因者/発症 リスクスコア
推奨対象 高年齢の方、体外受精を繰り返しても妊娠に至らない方 特定の遺伝性疾患の保因が確認されているご夫婦 将来的な生活習慣病などの発症リスクを可能な限り低減したい方

胚の凍結・融解技術


ガラス化凍結法は、高濃度の凍結保護剤を用いて胚の細胞を短時間で脱水させ、その後超急速に温度を低下させることで氷晶の形成を防ぎ、胚をガラス状の状態で凍結保存する方法です。この工程は経験豊富な胚培養士が操作する必要があり、熟練した技術によって胚へのダメージを最小限に抑えます。ガラス化凍結法では、胚の融解後の生存率は約90~95%に達するとされています。

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