医療コラム

胚移植培養液(エンブリオグルー)は効果ある?メリット・デメリットを解説

体外受精治療を受けるご夫婦にとって、胚が子宮内膜へ無事に着床することは、妊娠成立を左右する重要なポイントです。しかし、良好な胚を移植したにもかかわらず、妊娠に至らないケースも少なくありません。そのような場合に、着床をサポートする方法の一つとして注目されているのが、胚移植培養液(Embryo Glue:エンブリオグルー)です。

これまでの研究では、アルブミンやフィブリンを添加した胚培養液を使用した場合、添加しない場合と比較して妊娠率の向上に一定の効果が認められることが報告されています。一方で、アルブミンは血液由来成分であることから、感染症リスクが懸念されるという指摘があります。また、フィブリンについては、効果が期待できるのは特定の年齢層に限られる可能性があるとされています。

では、胚移植用接着剤はすべての患者さんに適した方法なのでしょうか。実際には、適応を判断する際にはさまざまな臨床的要因を考慮する必要があります。本記事では、胚移植用接着剤の仕組みや期待される効果、適応となる方、考えられるリスクや注意点について、医学的根拠をもとにわかりやすく解説します。

胚移植培養液とは?成分と役割を解説

胚移植培養液(Embryo Glue:エンブリオグルー)とは、胚移植時に使用される特殊な培養液です。主な成分として、ヒアルロン酸、各種タンパク質、アミノ酸などが含まれています。この培養液は子宮内の環境を再現するように設計されており、胚と子宮内膜との接着を促進し、着床をサポートすることを目的としています。そのため、体外受精を繰り返しても妊娠に至らない方や、高齢の方子宮内膜の状態が十分でない方などに対する補助療法として用いられることがあります。

一方で、胚移植用接着剤がすべての患者さんに有効というわけではありません。一部の研究では、本来備わっている自然な胚の選別機能に影響を与え、胚が早期に着床する可能性があるため、妊娠の質に影響を及ぼす可能性が指摘されています。これは、胚移植用接着剤のデメリットの一つとして考えられています。そのため、使用にあたっては医師と十分に相談し、ご自身の状況や治療歴を踏まえて適応を判断することが重要です。

胚移植培養液はどのように作用する?その仕組みを解説

胚移植培養液の主な役割は、胚の着床率を高めることです。主成分であるヒアルロン酸には培養液の粘性を高める働きがあり、胚を子宮内へ移植する際に、胚が子宮内膜へより安定して接着しやすい環境を整えると考えられています。その結果、着床率や妊娠率の向上が期待されています。近年の研究では、高濃度のヒアルロン酸を含む胚移植用接着剤を使用することで、臨床妊娠率および生児獲得率の向上が認められ、さらに流産率の低下につながる可能性も報告されています。

胚移植培養液の使用方法
一般的に以下の流れで使用されます。

  1. 胚の培養
    受精後の胚を、胚移植用接着剤を含む培養液で数時間培養し、移植前に培養環境を整えます。
  2. 胚移植
    培養後、医師がカテーテルを用いて、胚移植用接着剤に浸した胚を子宮内へ移植します。
  3. 着床のサポート
    培養液に含まれるヒアルロン酸や栄養成分により、胚と子宮内膜の接着が促され、着床しやすい環境を整えることが期待されています。

ただし、胚移植用接着剤はすべての患者さんに適しているわけではありません。 一部の研究では、発育能力が十分ではない胚の着床を促してしまう可能性があり、結果として妊娠予後に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

そのため、使用の可否については、年齢、不妊の原因、過去の治療歴、胚の状態などを総合的に考慮し、医師が個々の状況に応じて判断することが重要です。

胚移植培養液の効果は?

胚移植培養液は、胚と子宮内膜の接着を促し、着床率の向上を目的として開発された胚移植用培養液です。その有効性については数多くの研究が行われており、一定の効果を示す報告が蓄積されています。2020年にCochrane Libraryが発表したシステマティックレビューでは、26件の臨床研究・6,704名の患者を対象に解析が行われました。その結果、胚移植用接着剤を使用した群では、臨床妊娠率および生児獲得率が向上し、流産率もわずかに低下する可能性が示されました。また、2022年にHuman Reproduction Updateに掲載されたシステマティックレビューでも、同様の結論が報告されています。さらに、2022年にHuman Reproductionで発表されたシステマティックレビューでは、自身の卵子を用いた胚移植において、胚移植用接着剤を使用した場合、以下の可能性があることが報告されています。

  • 臨床妊娠率が約10%向上
  • 生児獲得率が約20%向上
  • 流産率が約30%低下
  • 着床率が約10~15%向上

一方で、提供卵子卵子提供による胚移植では、その有効性は明確ではないとされています。これは、卵子提供では比較的若年で質の高い卵子が使用されることが多く、もともとの着床率が高いため、接着剤による上乗せ効果が得られにくいと考えられています。インターネット上の口コミやSNSではさまざまな意見が見られますが、現在のエビデンスを総合すると、適切な症例では胚移植用接着剤が着床率の向上に寄与する可能性が示されています。ただし、その効果には個人差があるため、使用の適否については、不妊治療を担当する医師と十分に相談した上で判断することが大切です。

胚移植用培養液が適しているのはどのような人?

胚移植用培養液は、すべての患者さんに必要な治療ではありません。しかし、以下のようなケースでは有用となる可能性があります。

1. 良好胚を移植しても着床しなかった経験がある方
これまでに良好胚を複数回移植したにもかかわらず妊娠に至らなかった場合、胚移植用接着剤を併用することで、着床をサポートできる可能性があります。

2. 35歳以上の方
加齢に伴い子宮内膜の受容性が低下することがあるため、胚と子宮内膜の接着を補助する目的で使用が検討されることがあります。

3. 子宮内膜が薄い方
一般的に子宮内膜の厚さが7mm未満では着床率が低下する可能性があるため、このような症例では胚移植用接着剤の使用が選択肢の一つとなる場合があります。

4. 胚の発育評価が中等度の方
グレードBやCなど、最良胚ではない胚を移植する場合には、着床環境を整える目的で使用が検討されることがあります。

胚移植培養液のメリット・デメリット

メリット

  • 着床率の向上が期待できる:これまでの研究では、胚移植培養液を使用することで、着床率が約10~15%向上する可能性が報告されています。特に、良好胚を移植しても妊娠に至らなかった方や、子宮内膜の状態が十分でない方では、その効果が期待されています。
  • 子宮内環境に近い状態を再現できる:主成分である高濃度ヒアルロン酸は、子宮内膜の環境に近い状態を再現し、胚が子宮内膜へ安定して接着しやすい環境づくりをサポートします。
  • 追加の処置が不要で安全性が高い:胚移植培養液は、通常の胚培養液と同様の方法で使用できるため、特別な機器や追加の処置は必要ありません。また、これまでの臨床使用において、重篤な副作用はほとんど報告されていません。

デメリット

  • すべての患者さんに効果があるわけではない:若年で初回の体外受精を受ける方や、質の高い胚を移植する方では、胚移植培養液による効果は限定的であるとの報告もあります。そのため、症例によっては十分なメリットが得られず、追加費用のみが発生する可能性があります。
  • 追加費用がかかる:胚移植培養液は、多くの医療機関で自由診療のオプションとして提供されており、通常の治療費とは別に費用が必要となる場合があります。
  • 適応については議論が続いている:一部の専門家からは、胚移植培養液によって本来は着床しない可能性のある胚の着床も促進される可能性が指摘されています。ただし、この点については現在も研究が続けられており、十分な結論には至っていません。

使用を検討する際のポイント

胚移植培養液は、すべての患者さんに一律に推奨される治療ではありません。年齢、不妊の原因、子宮内膜の状態、胚の質、これまでの治療歴などを総合的に評価したうえで、使用の適否を判断することが重要です。使用を希望される場合は、生殖医療専門医と十分に相談し、ご自身の状況に適した治療法であるかを確認したうえで選択することをおすすめします。

 

參考資料:

  1. Heymann D, Vidal L, Or Y, Shoham Z. Hyaluronic acid in embryo transfer media for assisted reproductive technologies. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2020(9).
  2. Heymann D, Vidal L, Shoham Z, Kostova E, Showell M, Or Y. The effect of hyaluronic acid in embryo transfer media in donor oocyte cycles and autologous oocyte cycles: a systematic review and meta-analysis. Human Reproduction. 2022 Jul 1;37(7):1451-69.
  3. Tyler B, Walford H, Tamblyn J, Keay SD, Mavrelos D, Yasmin E, Al Wattar BH. Interventions to optimize embryo transfer in women undergoing assisted conception: a comprehensive systematic review and meta-analyses. Human reproduction update. 2022 Jul 1;28(4):480-500.