「廃棄」から「救済」へ ― モザイク胚の新たな可能性
「廃棄」から「救済」へ─モザイク胚の新たな価値を見出す
Discovery Channelの北米ゴールドラッシュ番組では、かつて多くの金が採れた鉱脈でも、今では高度な採掘技術と熟練した鑑識眼がなければ、新たな金を見つけることはできません。実は、生殖医療における「カオス胚(Chaotic embryo)」も、それによく似ています。
カオス胚とは?
PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)で、5本以上の染色体に全染色体レベルの増減が認められた胚は、「カオス胚(Chaotic embryo)」と分類されます。これまでは、ほぼ移植不可能な胚として扱われ、廃棄の対象となることが一般的でした。
このような結果は、胚そのものの生物学的な異常によって生じる場合もあれば、生検時の採取誤差やDNA増幅時のバイアスなど、検査技術に起因する要因が影響している可能性もあります。
では、「カオス胚」と判定された胚の中に、本来は移植可能な胚が含まれている可能性はないのでしょうか。生物学的な異常そのものを変えることはできません。しかし、検査技術による誤差であれば、改善・再評価できる可能性があります。
研究で明らかになった「救済」の可能性
茂盛生殖医学科の林秉瑤主任が2025年に米国生殖医学会(ASRM)で発表した研究では、3万個を超える胚を解析した結果、151個がカオス胚と判定されました。
そのうち形態評価の良好な46個を選び、融解後に再度生検を実施したところ、43個で再評価が可能となりました。
その結果、
- 約5個に1個(21%)の胚が判定を覆し、正常胚またはモザイク胚へ再分類
- 再分類された胚のうち3個が実際に移植され、1人の健康な男児が誕生
という成果が得られました。
もう一度チャンスを与えるという選択
もし検査技術の進歩によって、「移植できない」と判断されていた胚を救済し、その結果として約3分の1の生児獲得につながる可能性があるとしたら――。特に、時間との勝負でもある高齢不妊治療において、その可能性に希望を託したいと考える方も少なくないでしょう。もちろん、カオス胚の発生率は約0.5%と非常に低く、すべての胚が救済できるわけではありません。しかし、厳密な選別と専門的な再評価を行うことで、移植可能な胚へと再分類される可能性があることが、この研究から示されました。
茂盛医院では、最先端の研究と技術を通じて、「不可能」とされてきたものの中にも、新たな可能性を見出す努力を続けています。
「もう一度チャンスがほしい。」
その願いに応えるため、私たちはこれからも生殖医療の可能性を追求し続けます。