医療コラム

成長ホルモンを使用しても着床に失敗する―新たな研究で分かった「炎症因子」が原因である可能性

体外受精で胚移植を行う際、子宮内膜の状態は妊娠の成功を左右する重要な要素の一つです。

そこで近年、PRP(多血小板血漿:Platelet-Rich Plasma)療法が開発され、子宮内膜が薄い方や、着床不全を繰り返している方に対する新たな治療法として注目されています。

PRPには豊富な成長因子が含まれており、血管新生を促進し、子宮内膜の環境を改善することで、胚の着床率向上が期待されています。

しかし実際の臨床では、PRP治療後に妊娠へ至る方がいる一方で、子宮内膜は十分な厚さまで改善したにもかかわらず、妊娠につながらないケースもあります。

この治療効果の違いを明らかにするため、当院の研究チームは、子宮内膜が薄い患者様から採取したPRPサンプルを解析しました。その結果、血漿を精製して得られるPRPは、一般的に考えられているような「単純な再生因子」ではなく、「再生」を促すサイトカインと「炎症」を引き起こすサイトカインの両方を含んでいることが分かりました。

PRP中に再生因子「G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)」が多く含まれている場合は、子宮内膜の修復や肥厚に優れた効果が期待できます。G-CSFは血管新生を促進し、胚が着床しやすい子宮内環境の形成を助けるためです。

一方で、炎症性サイトカイン「IL-12」や「MCP-1」が多く含まれている場合は、炎症反応が強く、免疫系が過剰に活性化している状態であることが示され、かえって胚の着床を妨げる可能性があります。

これまで「免疫性不妊」と呼ばれてきた病態も、このような過剰な炎症反応により、体が胚を異物と認識して排除しようとすることが一因と考えられています。

この研究成果は昨年、American Society for Reproductive Medicine(米国生殖医学会:ASRM)で発表されました。PRP療法は決して「万能な治療法」でも「効果のない治療」でもなく、その作用機序を科学的に解明することで、治療前により精度の高い評価を行い、一人ひとりに適した治療戦略を立てられる可能性が示されています。

今後は、炎症性サイトカインの影響も考慮したうえでPRP療法を適切に活用することで、着床環境をより良い状態へ導き、妊娠の可能性を高める個別化医療の実現が期待されています。