非侵襲的な検査で「将来性のある卵子」を見極める
卵子の質が妊娠率に大きく影響することは、生殖医療の分野では広く知られています。しかし、卵子は非常に繊細な細胞であるため、その品質を直接評価する方法は限られており、これまで客観的な評価は容易ではありませんでした。
近年では、胚の評価においても「見た目だけでは十分ではない」ことが分かってきています。それでは、卵子そのものの発育能力は、どのように評価すればよいのでしょうか。
茂盛病院が今回、欧州生殖医学会(ESHRE)で発表した研究では、その新たな指標として「卵子の弾力性」に着目しました。
卵子の弾力性とは?
ここでいう「弾力性」とは、卵子にごく弱い吸引力を加えた際の変形のしやすさと元の形に戻る力、すなわち「粘弾性」を指します。
例えば、見た目は同じタピオカでも、実際に食べてみると、もちもちとした食感のものもあれば、柔らかすぎたり、逆に硬くなってしまっているものもあります。
卵子も同様です。卵子は内部の細胞構造だけでなく、その周囲を包む透明帯も含めた全体の状態が重要です。今回の研究では、この粘弾性を測定することで、卵子全体の構造的な健全性を評価しました。
粘弾性が良好な卵子は、細胞構造が安定しており、適度な弾力性を備えています。そのため、受精やその後の細胞分裂においても正常な発育が期待できます。
一方で、
- 硬すぎる卵子は、組織が硬化・老化している可能性があり、十分な柔軟性を失っています。
- 柔らかすぎる卵子は、構造が緩く安定性に欠ける可能性があります。
AIを用いて卵子の粘弾性を評価
今回の研究では、365個の卵子を対象に、顕微授精を行う前に、非侵襲的な測定装置を用いてごく弱い陰圧で卵子を軽く吸引しました。その際の変形量や回復速度をリアルタイムで記録し、AIがデータを解析。粘弾性の状態に応じて卵子をA・B・Cの3段階に分類しました。
各グレードの発育成績
3日目(D3) 良好胚率
- A:87.8%
- B:75.0%
- C:67.5%
胚盤胞到達率
- A:64.8%
- B:54.8%
- C:42.5%
粘弾性が高い卵子ほど発育能力も高い傾向
研究の結果、最も粘弾性が良好なAランクの卵子は、その後の胚発育成績も優れていることが確認されました。また、35歳未満ではAランクの卵子が多く認められた一方、35歳以上ではB・Cランクの割合が増加していました。これは、加齢に伴い卵子の質が理想的な状態から変化しやすくなることを示唆しています。
将来の卵子評価への応用に期待
この評価法は、顕微授精前の卵子評価への応用が期待されており、将来的には「卵子品質評価ツール」として臨床で活用される可能性があります。これまで主に形態観察に依存していた卵子評価に、客観的な数値データを加えることで、胚の発育能力をより正確に予測し、生殖医療における治療方針の決定に役立つことが期待されています。